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極限状態の善悪 『海と毒薬 (角川文庫)』

海と毒薬 (角川文庫)海と毒薬 (角川文庫)
(2004/06)
遠藤 周作

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罪の意識とは何か?


腕は確かだが、無愛想で一風変わった中年の町医者、勝呂。彼には、大学病院の研究生時代、外国人捕虜の生体解剖実験に関わった、忌まわしい過去があった。病院内での権力闘争と戦争を口実に、生きたままの人間を解剖したのだ。この前代未聞の事件を起こした人々の苦悩を淡淡と綴った本書は、あらためて人間の罪責意識を深く、鮮烈に問いかける衝撃の名作である。解説のほか、本書の内容がすぐにわかる「あらすじ」つき。(「BOOK」データベースより)


●裁くのは誰か

戦争と言う極限状態において、人間の善悪はどのようになるか。
『海と毒薬』ではそんなことを考えさせられます。

戦争中におこる、捕虜をつかった生体実験。
人の価値観がぎりぎりの状態まで来ている時、どのような判断を下すか。
そこで、自分の中の善悪ははたして正常に機能するのだろうか。

なんとも薄気味の悪い本でした。
でてくる登場人物すべてが、いろいろなことで追い詰められている。
もちろん、戦争と言う極限状態が要因でもあるのですが、それ以上にそれぞれがそれぞれのごく私的なことで追い詰められている。
利権関係、派閥争い、愛憎のもつれなどなど。

自分の力ではどうにもならない要因と、欲のために自ら引き寄せる要因が不幸に交じり合って、人々の心を蝕んでいきます。
戦争だけとは言い切れない。色々含めての極限状態。

●罪の感情

登場人物の一人が、生体解剖を行った後で罪責観念があまり沸かないことに気づきます。
罪責観念とて感情。
豊かな感情でいられない時代では、彼らにはそれすら過ぎたるものなのかも。

冒頭部分。主人公の勝呂医師の戦後の姿。
豊かな時代なはずなのに、戦中に失った「人としての大切な何か」は戻ってこなかったようです。

鈍い重さを感じるような、そんな読後感でした。


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