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『聖なる怠け者の冒険』~森見作品のゆるさと魅力~

聖なる怠け者の冒険聖なる怠け者の冒険
(2013/05/21)
森見 登美彦

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最近、小説のたぐいは図書館で借りることが多いのですが、これは買っちゃいました。
朝日新聞で連載されているときから気になっていて、いつ出るかいつ出るかと待ち続け。
あまりに待ちすぎて、出たことを知らず、ちょいと遅れての購入となりましたが、うん買ってよかった。

森見登美彦さんおとくいの京都を舞台にした物語。
今回は腐れ大学生こそ出てこないものの、怠けを好む素敵な青年が主人公。
そして、主人公を取り囲む、癖のあるアヤシゲな人々や怪人&神さま。
ゆるゆるとした物語展開が、心地よい脱力感をかもしだしています。

ゆるゆると物語は展開していくものの、とりたててアグレッシブなことが起こるわけでなし。
大きな冒険でなく小さな冒険がのんべんだらりんと続いていって、総合的にそこそこ大きな冒険としてまとまる感じ。
他の森見作品で言えば『四畳半』、『夜は短し』、『有頂天家族』のような京都舞台の脱力阿呆らしい不思議系。
『宵山万華鏡』や『きつねのはなし』のようなシリアスさはないです。(わたしはシリアスじゃない森見作品のほうが好きです。)

なんでしょうか、森見作品のゆるさ。
夏の夕暮れどきのような、だるさとゆるさ。
クソ暑い日中が終わり、やんわりと涼しさが広がって、どこか脱力気味な心地よさがひろがる、、、そんなゆるさ。
『聖なる怠け者の冒険』の中でも季節は夏ですが、やっぱりその季節が一番ゆるさに合うんじゃないかなって思います。
(真冬とかだったらゆるくないですもの。こたつのなかとかはゆるいけど。)

ぽんぽこ仮面なる怪人が出てきます。
彼は一体何者で、何故本書で起こる様々なできごとにまきこまれていくのか。
それがストーリーの大筋の一つでもあるのですが、この怪人のネーミングが良い。
森見登美彦さんのネーミングのセンス、本当に好きです。ゆるい。
なかなかタヌキの怪人に「ぽんぽこ仮面」というベタベタな名前をつけるのには勇気がいるもの。だって主要キャラなので、全編通して「ぽんぽこ仮面」の名が出てくるのですから。
下手に骨のある内容ならば、違和感でも沸き起こりそうなものですが、『聖なる怠け者の冒険』では、それをしっかり受け止めるだけのゆるさを持っています。
他にも天狗ブラン、偽電気ブラン、充実した土曜日、週末探偵、etc・・・素敵なネーミングがいっぱい。
これらのネーミングにあふれた世界に接しているだけで、なんだかゆるい(脱力した)心持ちになれるので、私にとって森見作品は浮世をちょっとだけ忘れる良い息抜きとして役立っています。

世界観や空気感が良い。
正直、ストーリーとしては、大層なことが起こるわけでもないし、とりたてて感動する、驚きがある、ワクワクするといったこともありません。
ただただ、淡々ゆるゆると展開していって、最終的に小さな冒険の積み重ねの結果が待ち構えている構成です。
読み終わったあとに、特に何か胸に残るでもなし。
でも、時間がたつと無性にあの世界に浸りたくなる。。。
なんだか分かりづらいですが、私にとってそういう小説でした。


関連記事
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腐れ大学生の始まり 『太陽の塔』

太陽の塔 (新潮文庫)太陽の塔 (新潮文庫)
(2006/05)
森見 登美彦

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阿保の伝説、ここにあり

京大5回生の森本は「研究」と称して自分を振った女の子の後を日々つけ回していた。男臭い妄想の世界にどっぷりとつかった彼は、カップルを憎悪する女っ気のない友人たちとクリスマス打倒を目指しておかしな計画を立てるのだが…。 (Amazonの商品説明より)


前回の日記、『きつねのはなし』の作者、森見登美彦さんのデビュー作です。

ご存知、森見流腐れ大学生の始まりともいえる作品。
阿保らしい妄想と机上の空論。
男臭い仲間たちと、彼らを出し抜くような淡い恋心。
笑いと胸キュンがいい具合に交じり合った良作です。

私事ながら、今年は森見さんの作品にどっぷりはまった一年でした。
ちょっと昭和っぽい登場人物達と、森見さん独特の台詞回し。
馬鹿馬鹿しいのだけれど、手放しで馬鹿にできないどこか共感する展開。
時にはシリアスな作品もあるけれど、概ね阿保なノリの森見作品に2011年は大いに癒されました。

この『太陽の塔』で今現在(2011年、年末)発行されている森見さんの書籍を全部読んだことになります。
本作は、この後に書かれることになる『四畳半』や『夜は短し…』の世界観の原型がしっかりと出来合っています。
もう、キャラクター達が愛すべき阿保。
青春のやり場を間違った方向に棚上げした、腐れ大学生の七転八倒には相変わらず笑わせていただきました。

今作の主人公”森本”は意外や恋愛経験者兼失恋経験者。
彼を捨てた女性をめぐる珍奇な争いや、彼を取り巻く女っ気のなさそうな友達連中。
有り余るエネルギーと青春、ちょっぴり切ない恋愛の入り交じった素敵な物語に仕上がっています。

本作でも言えることですが、森見作品ではファンタジー≒妄想の図式で成り立っていると思います。
登場人物達の溢れ出す妄想に、子供たちがファンタジーに惹かれるかのごとく、私たちは惹かれていきます。
別に妖精も、魔法も、不思議な冒険もなにもありませんが、森見作品の妄想には世知辛い世の中の疲れを癒してくれるような、そんなものがあるような気がします。
愛すべきかな腐れ大学生。彼らの行動が現実を非現実にし、浮世離れた世界を構築してくれるのです。

デビュー作だけあって、まだまだキャラクター達のはじけっぷりや台詞回しがこなれていない感じもあります。
その分フレッシュさや変な勢いはどの作品にも負けていません。
今後に続く、原点。良い!


関連記事(森見作品発売順)
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森見怪異 『きつねのはなし』
清楚なお嬢さんが主役です。 『夜は短し歩けよ乙女』
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阿呆には阿呆のわけがある 『有頂天家族』" target="_blank" title="阿呆には阿呆のわけがある 『有頂天家族』">阿呆には阿呆のわけがある 『有頂天家族』
美女と竹林は当価値なのか 『美女と竹林』
守田一郎が黒髪の乙女と大文字に行くには  『恋文の技術』
鏡の中の多重色彩 『宵山万華鏡』
淡く甘酸っぱいメルヘン  『ペンギン・ハイウェイ』
四畳半×阿呆 『四畳半王国見聞録』

森見怪異 『きつねのはなし』

きつねのはなし (新潮文庫)きつねのはなし (新潮文庫)
(2009/06/27)
森見 登美彦

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京都の夕闇

京の骨董店を舞台に現代の「百物語」の幕が開く。注目の俊英が放つ驚愕の新作。細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。さらに次々起こる怪異の結末は―。端整な筆致で紡がれ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。(「BOOK」データベースより)



『夜は短し歩けよ乙女』などの著作がある森見登美彦さんが描く少し妖しい京都の話です。

森見さんの作品と言えば、少し古風な話し言葉とバカバカしくも青春の香り漂うものが多いです。
しかしこの『きつねのはなし』に限って言えば、かなり他の作品と違うテイストです。
(あえていうと『宵山万華鏡』はかなり近いテイストです)

京都を知り尽くした著者が書く、妖しい空気感。
路地裏のような、入り組んだところ、太陽の届かない、京都の街の奥の奥。
魑魅魍魎と人間がうっすら混じり合うようなキワキワの世界。
じんわりと湿っぽさが漂う、まとわりつくような気味悪さを感じる話です。

私は高校生のころは角川ホラーが好きで、今でも怖い系の小説は好きなのですがこのはなしはあまり好きにはなれませんでした。
話の流れがすっきりしているわりには、後味がすっきりしないという感じ。
読後の薄気味悪さがやけにひっかかります。

しかし、怖さで言うならば上質のものをもった作品だと思います。
読んでるときにはそれほどでもないのですが、しばらくするとじわりと怖さが立ち上がってきます。
それらの怖さは、京都という舞台にぴったりな部類のレトロな怖さ。
日本に昔から受け継がれている怖さが広がっていきます。

他の森見作品と同じノリで読み始めると痛い目にあうと思います。



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守田一郎が黒髪の乙女と大文字に行くには  『恋文の技術』

恋文の技術恋文の技術
(2009/03/05)
森見 登美彦

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嗚呼貴方は阿呆でした

京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。 (「BOOK」データベースより)


主人公守田一郎は遠く離れた能登半島から関係者各位に文通を始める。
そこには机上の空論と阿保丸出しの熱く無益な内容に満ちたもの。
守田一郎の出した手紙から見えてくる阿保が目指した恋文の技術とは。


作者は『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』などでおなじみの森見登美彦先生です。
この本の進み方はちと変わっております。
主人公の守田一郎が出し続ける文通のみが掲載されています。
返事の手紙は一切載っておらず、すべては守田一郎が出す手紙の内容から、ストーリーの展開を想像していく形になっています。


守田一郎は同時に複数人と文通のやりとりをしています。
なぜそんなに文通をするのか。文通武者修行中かつ阿保だからです。
複数人に出す手紙の内容から、立体的に守田一郎の周りに起こっているストーリーが建ち上がってきてどんどんと全貌が見えてきます。
マシマロに似た友人の恋、高等遊民を目指す妹、変なスタミナドリンクを愛飲する先輩、サディスティックな先
輩、家庭教師時代の教え子、締切から逃れたい森見登美彦 等など…
彼らが繰り広げる特に益もない行動が守田一郎を一喜一憂させ、物語を展開させていくのです。

私の中では、今まで読んだ森見登美彦作品の中ではベスト3に入るぐらい気に入りました。
展開されていく物語のなんとも言えない阿呆っぷり。
ハラハラもドキドキもなく、ただただリラックスして笑える本です。

森見登美彦にでてくるキャラクターはどうしてこんなにも愛おしい情けなさを持っているのでしょうか。
現状で優秀でもなければ、大器晩成のかけらも見えない。
机上の空論にのたうちまわりながらも、肩の荷はすっかり下ろしている感じがしていて好感が持てます。
良い意味で、大学生が持つ阿保さを象徴したようなキャラクター達だと思います。

秋の夜長にリラックスして読書を楽しめました。
今までに文通をしたことがある人もない人も、守田一郎の気分に浸って思いをめぐらしながら本を読み進めてもらえればと思います。


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      美女と竹林は当価値なのか 『美女と竹林』

美女と竹林は当価値なのか 『美女と竹林』

美女と竹林美女と竹林
(2008/08/21)
森見 登美彦

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机上の竹林

美女に会ったら伝えてくれ。俺は嫁を大事にする男だと。妄想と執筆に明け暮れた、多忙にして過酷な日々。森見登美彦氏を支えてくれたのは、竹林であった。美女ではないのが、どうにも遺憾である。虚実いりまぜて、タケノコと一緒に煮込んだ、人気文士の随筆集(「BOOK」データベースより)


『夜は短し歩けよ乙女』などで有名な森見登美彦氏
彼が心から愛してやまない竹林を舞台にした、珍竹林エッセイ。

森見登美彦氏の文体冴え渡る本だと思います。
竹林に夢と逃げ場を見出した森見登美彦氏。
彼は竹林整備を題材にエッセイを書き始めるのですが、面白いぐらいに何も起こらない。

だんだん本人自身も迷走してくる感が文章から滲み出ています。
しかし、それを詭弁の大いなる力によってねじ伏せて、オモチロイ文章に仕立て直しているから素敵。
森見登美彦氏自身が氏の小説の腐れ大学生のような、微妙っぷりを見せてくれるのがなんとも心地よろしいです。


私が森見登美彦氏の作品に惹かれる理由の一つに、現実と妄想があります。
氏は現実世界と妄想世界のリンクのさせかたがすごく上手。
リアルすぎず、フィクションすぎずの塩梅がとても良い!
さいごまでダレずに面白さのテンションをキープできるのは、そのへんの塩梅加減にも関係があるのではないかと思います。

現実の京都の話かと思えば、片足は妄想の世界に突っ込んでいる。
妄想かとおもいきや京都の地盤を足踏みしめている。
そのへんのフットワークのリズムに独特の心地よさを感じ、そして森見作品のファンになっていきます。


本書はエッセイなので現実風味がかなり高いですが、それでも妄想スパイスはきっちりふりかけられています。
なさけないほどにおもしろい、いい具合の脱力読後感でした。


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