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理想と現実 『月と六ペンス』

月と六ペンス (光文社古典新訳文庫)月と六ペンス (光文社古典新訳文庫)
(2008/06/12)
ウィリアム・サマセット モーム

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芸術に生きる行動


新進作家の「私」は、知り合いのストリックランド夫人が催した晩餐会で株式仲買人をしている彼女の夫を紹介される。特別な印象のない人物だったが、ある日突然、女とパリへ出奔したという噂を聞く。夫人の依頼により、海を渡って彼を見つけ出しはしたのだが…。 (「BOOK」データベースより)


ストリックランド氏はある日、家も家族も地位も捨て、パリへ出て行きます。
彼は周りからごく平凡な男と写っていて、きっと女性問題だろうと噂されます。
「私」はストリックランド夫人の依頼でパリに行き、氏を見つけます。
どうやら、女性の影もなく、単身の様子。理由を問う「私」に氏は意外な答えを出すのでした。
「絵を描きたくてな」


絵のためにすべてを捨てたストリックランド氏。
彼はいままで絵など描いたことがありませんでした。
しかし、彼は内なる情熱に突き動かされ、なにもかもを捨てます。
数年の後「私」はストリックランド氏の足跡をたどっていき、不思議な彼の生涯を知ることになります。


ストリックランド氏はおそらくすごく純粋な人間なのです。
どこまでも自分に正直になった瞬間から彼は一切のしがらみから開放されます。
世間一般の常識から背を向けた彼はどこまでも自由な芸術の世界のみで生きていきます。

誰からも理解されず、されどそんなことは気にしない。
自由の代償にとらわれないことが本当の自由であるような気もします。
もちろんそれは夢物語であり、現実では成立せぬこと。

しかし、現にこの物語でストリックランド氏は獲得しているのです。
己の自由を。

ストリックランド氏は画家のゴーギャンをモチーフにしているようで、最終的にタヒチに落ちつき、そこで絵を描き続けます。
あくまで自然に。素朴な人々、あふれる緑、植物。そして食物。
文章から、とても美しい夢のようなところということが伝わってきます。
文明からかけ離れ、躍動する自然のまま生きる生活。
タヒチこそストリックランド氏の理想とすべき場所だったのでしょう。
そして彼はそこで現実を生き抜いていくのです。

タイトルの『月と六ペンス』
解説に月は理想のメタファー、六ペンスは現実のメタファーとあります。
モームの別の作品に付けられた書評に
「ほかの多くの青年と同様、主人公フィリップは『月』にあこがれ続け、その結果、足もとにある「六ペンス」銀貨には気づかなかった」と書かれたそうです。
それをストリックランド氏にも応用できると考え、このタイトルになったそうです。

私は、ストリックランド氏は「月」に憧れもしなければ、「六ペンス」気づかなかったわけではないと思います。
彼は理想を現実として勝ち取り、また通念とされる現実を自ら選ばなかっただけです。

様々な憶測をしてしまいがちですが、通念にとらわれず、ただあるがままシンプルにストリックランド氏の行動を見つめること。
それが、この本から多くのことを得られる最善の方法なのではと思うのです。




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