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『陰翳礼讃 (中公文庫)』~日本の美学について~

陰翳礼讃 (中公文庫)陰翳礼讃 (中公文庫)
(1995/09/18)
谷崎 潤一郎

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影や暗いところを尊ぶ。
そこから始まる美の価値観。

小説家である谷崎潤一郎氏の随筆集です。
かなり昔に書かれたものですが、現代人が見失いつつある、ある種の日本のアイデンティティについて言及されており、クリエイターやデザイナーなどに、支持されています。

どこもかしこも明るい。
西洋化の波のある面は、世の中の闇、暗い部分をすべて照らしだそうという方向性で発展してきました。
現代など、夜に街にでてみても、どこにも街灯はあるし、コンビニなどは周囲をコウコウと照らしています。
それはそれで便利ですし、それがあるからこその安心感というものもあります。

しかし、旧来では日本は暗いのが当たり前であった。
家屋などでも、奥まったところは日がささず、薄暗い。むしろそれが当たり前の状態であったようです。
西洋人はそういうものを光で支配しようとした。日本人はむしろそこに順応し、そこから美意識を育てていった。
本書で、そういった意見が出てきた時に、なるほど日本古来の道具などがある種の地味さや陰鬱さを秘めているのかということに合点がいきました。

道具というものは、生活や空間から生まれてきます。
闇や暗がりといったことが当たり前であった日本において、その状態のなかでもっとも美しく機能的であることが求められて行ったのでしょう。
現在では、我々はそれらを明々とした蛍光灯、電灯の下などで見ますが、それは本来ではないのでしょう。

夜外にでてみる。
見渡す限り人口の光のない場所なんていうのは、よほどの山奥にでもいかないと無理でしょう。
感覚的なことで言うと、じつはそういう闇の中に身を置くことも必要なのかも。
そうすることで開けてくる、感覚であり美意識であり、日本風土に本来あるものを目覚めさせることができるのかも。

日中、家の中。
家中の電灯を消し、過ごしてみる。
どこかしらに生じる陰あるいは闇。
そこにこそ、忘れられた美意識の生じる隙があるように感じます。


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『竜が最後に帰る場所』~世界の薄皮をめくって~

竜が最後に帰る場所竜が最後に帰る場所
(2010/09/17)
恒川 光太郎

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図書館で借りた本です。
本を借りに行く時、実用書やデザイン書、その他多くの本は目について面白そうだとすぐ手をとるのですが、こと小説ではそれをしません。
基本的に小説は、読みたい本や作者を決めてから借りるというのが定番。
あらかじめ、知っている作者や評判を聞いて面白そうと思ったら借りるというスタイル。
小説をその場で選ぶということは希で、これまであんまり新規開拓してきませんでした。

そんな私が久しぶりに表紙(ジャケット)に惹かれて借りた本。
イラストの具合がほんわかしていて、たまには新規チャレンジもいいかと思って手に取りました。

手にとって良かった、面白かった!
ありそうで体験したことのない読み心地というか、そんな感じ。
ファンタジーのようなーホラーのような、現実との境目があやふやな場面を描く5つの物語。
どれも面白く、一気に読んでしまいました。

あえて言うなら「世にも奇妙な物語」的な読み心地。
短編集で、個々の作品が「世にも奇妙な~」的なものはいくつか読んだことがありますが、本書に関しては全体的にそんな感じ。
スッキリ、ほんわか、後味が良くない、不思議な世界、etc・・・
そういう要素がまぜこぜになっていて、話としては繋がってないのだけれど、それぞれがそれぞれを補い合うような関係が感じられます。
それぞれの話が面白いんだけど、やっぱり全体としての読み心地が良い。
一つの本に過不足なく必要なものが詰まったって感じです。

5つの中では特に『夜行の冬』と『鸚鵡幻想曲』が秀逸。
二つとも、「世にも奇妙な物語」にピタッとはまるような世界観。
設定も面白いし、展開も良し。

この作者の他の作品も読んでみたくなりました。



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『キャサリン・カーの終わりなき旅 』~ミステリーなのかなんなのか?~

キャサリン・カーの終わりなき旅 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)キャサリン・カーの終わりなき旅 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2013/02/08)
トマス・H. クック

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裏表紙にある「世界が絶賛する巨匠が繊細に紡ぐ苦悩と再生の物語」という言葉に惹かれて借りてみました。
読み出すとミステリー、読み終えると・・・

主人公のジョージ・ゲイツは息子を殺されたという過去を持つ新聞記者。
あることがきっかけで、20年前に失踪した詩人、キャサリン・カーの小説に接することとなります。
その中には、キャサリンの失踪に関する謎が隠されているのか。
ふとしたきっかけで知り合った早老症の少女アリスとともに、小説を手がかりにキャサリン・カーの行方を追うことになるのですが・・・

もともとミステリーがあまり得意でないのもありますが、私にはなじまない話でした。
物語の構造もなんだか複雑。
現実で進行する話、キャサリン・カーの物語、ジョージの回顧やらがめまぐるしく入り混じって、なかなかすーっと読み進められませんでした。
設定そのものはなかなか興味を持たされるものがあったのですが、話のテンポに最後までなじめず、ちょっと残念。
(というか、そもそもこの話はミステリーなの?と終盤では何が何だかよくわからくなりました。)


たしかに、裏表紙にあった「苦悩と再生」は描かれていますが、私が想像していたものとは違いました。
立ち直っていくよ、ハレルヤ!みたいなのと違い、またふっきれるとも違い。。。キャサリン・カーの顛末もむむむ?
だけど再生していることはしているんですよ。何も再生は元に戻るということだけではなく、異種のものへの再生もありえるわけですし。

アメリカ小説だからというわけではないですが、やっぱり考え方が違うのでしょうか。
どこか齟齬があって、進展についていけない。もしくわ、単に私の読解力が足りないのか・・・(大いにありうる)

読むべき人が読めば、ぴたりと合うものがある・・・はず。



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『罪と罰〈下〉 (新潮文庫)』~有限の神経質~

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)罪と罰〈下〉 (新潮文庫)
(1987/06/09)
ドストエフスキー

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(※ほんのちょっぴり、ネタバレを含みます)

『罪と罰』の下
話はクライマックスへ。

主人公ラスコーリニコフがとらわれていた思いとはいわば英雄思想。
英雄というものは大事を成し遂げる前に、かならず乗り越えるべきものがあった。
それは時代から見れば罪に見えるものでも、後世には些細なこととして捉えられる。
ナポレオンであれなんであれ、それをのりこえたからこそ、名を残す英雄となり得たのだ。
その中で、ラスコーリニコフが乗り越えなければならなかったものこそ、老婆殺しという罪でした。

しかし、ラスコーリニコフは罪を乗り越えることはできません。
英雄であろうとする思いと、自らの中にある一抹のヒューマニズム。
そしてそれに苦しむことに絶望する彼。
自分は英雄足りえないのかと。インテリの挫折とでも言いましょうか。
深いそれに陥っていくことになります。

殺人を犯してから、彼は様々なことに遭遇します。
不幸な人々とその死。傲慢なニヒリストの自殺。友人や家族の愛情。
そうしたことを経ての、ある種のあきらめ。
あきらめと捉えるのがいいのでしょうか、何かを断念する気持ち。
(ここで、ラスコーリニコフは人間として少し成長したものと思います。何かを諦めることで、開ける道がある)

彼は刑法上の罪を償うこととなります。
それは罰なのか。むしろその中でラスコーリニコフは救われていくこととなるのですが。。。

私にはこの結末は予想外でした。
この展開の中で、このようなエンディングが待ち構えていようとは。
これも、当時の、しかもキリスト教圏の小説の特徴?
ドストエフスキーがキリスト教的人道主義に目覚めたあとの作品のようなので、その影響も多々あるのかもしれません。
「最後に愛は勝つ」と歌の文句じゃないですが、そういう人間味が大事ってことですね。

ラスコーリニコフの強迫性神経症的気質と英雄思想。
これは現代人にもよく当てはまるものかもしれません(それともはるか昔から、多くの若者が患ってきたものなのかも?)。
読めば、何かしら思い当たることもあるし、彼の苦しみの一端ぐらいはわかります。若干彼はいきすぎですが。
ある種の青春小説的な要素もあるので、できれば若いうちに読んでおいたほうがグッとくるでしょう。
理論や理想だけというのは、腹の足しにもなりません。
解説の工藤誠一郎氏の言葉がそれをうまく表していたので引用させていただきます。
「ドストエフスキーは『罪と罰』で人間の本性を忘れた理性だけによる改革が人間を破滅させることを説いたのである。」

-------------------------------------------------------
余談

本書には挿絵がありません。

ラスコーリニコフは病弱という設定。
読み進めていくうちに、私の中で結ばれたラスコーリニコフ像は、映画『オーメン』のダミアンでした。
悪魔の数字666をあざに持つダミアン。
ラスコーリニコフの病弱な容貌と内に秘める歪んだ思いが、それをイメージさせたのでしょう。

ってなこと考えてたら、面白い考察を見つけたのでリンクを貼らせていただきます。
ラスコーリニコフ=666 - ドストエフスキー雑学


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『罪と罰〈上〉 (新潮文庫)』~強い思いに絡め取られて~

『罪と罰〈上〉 (新潮文庫)』~強い思いに絡め取られて~

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)罪と罰〈上〉 (新潮文庫)
(1987/06/09)
ドストエフスキー

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『罪と罰』
言わずもがなの、歴史的名作とされる本です。

いつかは読まねばと思っていた作品。
山登り好きの人が、登頂を目標とする名山のように。
難しいということだけは聞いていたので、読みきれるか不安もありましたが、頑張って読破しました。

まず何が難しいか。。。
それはなんといっても文化の壁では。
登場人物たちはロシアの人々。
だから名前がやたら長くて覚えられない。。。
たとえば、ラスコーリニコフ、カテリーナ・イワーノヴナ、レベジャートニコフ氏、ソーニャ・セミョーノヴナ、アマリヤ・フォードロヴナ・・・
こんな調子で、聞いたことのない発音の名前がいっぱい出てくるので、誰が誰だか覚えるのが大変。
しかもラスコーリニコフ=ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ=ロージャなど本名とニックネームが入り混じってさらにそれは複雑に。

そして、文化的背景。
その当時のロシアの生活感がいまいち掴みづらい。
貧富の差がどれぐらいあって、登場人物たちがもっている貨幣がどれぐらいの価値があるのか。
男女の権利の差Sや、風習そのたもろもろも、見たことがないようなものが突然でてくるので、ちょっと戸惑い。
「なんで、いきなり膝まづいて足にキスをするんだ???」っとこんな調子です。
これらをクリアしつつ読み進めるのはなかなか大変でした。

内容は、重いです。
それもずシーンと。
主人公ラスコーリニコフが犯した罪。
彼、そのことで罪の意識におびえることに、ショックを受けることになります。

ラスコーリニコフはその当時の大学生(元)。いわばインテリです。
そんな彼が、自らの中で作り上げた理想像の元に、行動をおこし、そして現実の自分とのギャップに神経を病んでいく。
ラスコーリニコフの内面描写はひどく歪み、また波も激しい。
躁鬱気質を持った彼の葛藤とそれをとりまく不幸な人々。
貧しさやとか人間のいやったらしさの中で生きる市中の人々がラスコーリニコフと絡むことで、彼はますますなにが正しいのがわからなくなっていきます。

続きは(下)で…


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