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『不思議な羅針盤』~丁寧な眼差し~

不思議な羅針盤不思議な羅針盤
(2010/12/17)
梨木 香歩

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『西の魔女が死んだ』の作者、梨木香歩さんの随筆集。
以前にも書きましたが、梨木さんのはエッセイというより、随筆といった趣があります。
ニュアンス的なものですが、私はこの本を随筆と呼びたい。

自然のサイクルを生活に取り入れながら生活する梨木さん。
人だけのサイクルでは見えてこないものや、感じ取れない微かなものにまでその眼差しは注がれています。
ひとつひとつが丁寧。
淡く、清らなか日々の営みにしっかりと向き合うその姿勢と文には、背筋が伸びるような、心地よい緊張感が含まれています。

本書の中から、気に入ったところを抜粋

「(フキの下ごしらえについて・・・)アクというものは、常に外に出よう出ようとしているもののようだ。人のうちにある「アク」もきっと、そのようなものなのだろう」

「(フキのアクと人のアクをからめて)「アク」は簡単に爪を染、心を染める。その「アク」の質によっては、一度染まったら二度ともとには戻らない。知らなかった自分に戻れない。」

「明るさや音が強烈であるほど感覚が揺さぶられるわけではない。乱暴に言えば、ハリウッド映画のように刺激が大きければ大きいほど感覚自体は麻痺するし、入ってくる情報が少なければ少ないほど、僅かな差異を認識しようとより感覚の間口は大きく開かれ、感度は高く研ぎ澄まされていく。」

梨木香歩さんの哲学とでももうしましょうか。
自然の摂理、流れと絡めたその視線。
人間本位の生活体系が主流の世の中において、もう一度見つめ直すべきものを投げかけてくれています。


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『文鳥・夢十夜 (新潮文庫)』~明治の時代性に思いをはせてみる~

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
(2002/09)
夏目 漱石

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随筆であり、短編小説であり、そして小品であり。
たんたんと重ねられていく文章。
短い中に凝縮された、夏目漱石の時代性が感じられます。

数ページほどの様々な話で構成されている本書です。
書かれたのは明治期。
読んでいる私はもちろん平成の現代に生きる者ですが、この文章を読んだ当時の人にはどう映ったのだろうかと思いを巡らせます。

なんともモダンな文章。内容は精神的なこと、西洋への留学のこと、哲学的なこと、日常的なこと。
留学の話や哲学の話は、当時の人にとってはどう映ったのでしょうか。
まだまだ海外が未知の世界の時代のはず。たいそうインテリジェンスな読み物だったのではないでしょうか。
当時はどのような階層の人が本書を読んでいたのか。知識人か、学生か。もしくは庶民のおかみさんのような方までも読んでいたのだろうか。
そういう時代性のようなものを考えながら読むと、なかなかに面白いものがありました。

明治の生活描写、特に夏目漱石の闘病中の描写。
何を食べ、何を娯楽とし、また治療に至ってはどのようなことが施されていたのか。
今とは全く違ったそれらの生活風景に目新しさも感じました。

観察ということ。
表題の「文鳥」という作品を見ても、夏目漱石の日常に対する観察の鋭さのようなものが感じられます。
ただ見るのではなく、深く深く分解するかの如く、観察する。
何気ない日々の営みを、文学的高みにまで抽出するその観察眼には、夏目漱石という人の存在の高さがうかがい知れます。


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『春になったら苺を摘みに』~美しい随筆~

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)春になったら苺を摘みに (新潮文庫)
(2006/02/28)
梨木 香歩

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美しいけれど、悲しみもあって・・・

エッセイというと私の中では軽い読み物というイメージがありました。
著者の体験なんかを面白く、またスマートに文章で表したもの。
全般的にすらすらと読みやすいのがエッセイであると。

本書は、すらすらと読めるタイプのエッセイではありません。
どちらかというと、じっくりじっくりと読みすすめていかなければ伝わってこないタイプ。
解説において清水真砂子さんは随筆という言葉で表している。
たしかに、エッセイよりも随筆のほうがしっくりとくるような文章です。

著者のイギリス滞在時における、交遊録がメイン。
下宿の女主人であるウェスト夫人から語られる、生きる上での美しさや厳しさ。
戦争の悲しみ、人種の壁のようなものまで。
さらりとは流すことのできない、人と人とが生きていく上で噛み締めなければならない様々なことが丁寧に描かれている感じ。
でもけして重くはなりすぎない。
このウェスト夫人とイギリスの生活風景、人の優しさなどと合わさり、あくあまで上品な随筆と仕上がっています。

本書のテーマの一つが、「日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続ける」であると思います。
現代の様々なことが素早く過ぎ去っていくような時代。
そんな時代にこそ、じっくりと深く考え、生き抜くことが重要視されなければいけないのでは。

これは随筆(エッセイ)ですが、たしかに梨木香歩さんの小説へとつながる空気が漂っています。
梨木さんの作品に感じる、上品さ、静寂、清純さ。それらの空気感。

さっと読み通すのではなく、少しづつ少しづつ、大事に読むことをおすすめする本です。
(小説ではありませんが、カテゴリーは小説欄の「梨木香歩」さんのところへ入れてあります)


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『駿河城御前試合』~シグルイの原作、血で血を洗う十一番勝負~

駿河城御前試合 (徳間文庫)駿河城御前試合 (徳間文庫)
(2005/10)
南條 範夫

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数年前、『シグルイ』という漫画にはまりました。
なんちゅうか、壮絶としか言えないような時代物の漫画。
左腕の無い剣士藤木源之助と盲目の剣士伊良子清玄との宿命の対決を描いた作品。
作者の山口貴由さんの画力もあり、残酷ながらも力強く人を惹きつける漫画に仕上がっていました。

この『シグルイ』の原作となったのが『駿河城御前試合』。この中の「無明逆流れ」という話が元となっています。
今から50年以上も昔に書かれた本ですが、今見ても十分に面白い。
時代劇ということもあるのでしょうが、ぜんぜん古臭さを感じさせない内容です。

映画『バジリスク』の原作になった『甲賀忍法帖』と近いものがあるかも。
異能とはいかないまでも、常人をはるかに凌ぐ秘伝の技を持った武芸者達の勝負が十一番描かれています。

小説って、いくら物語でもどこかに救いようみたいなものを求めてしまうもの。
ただ、『駿河城御前試合』に関してはそれがありません。
どの試合も、救いようのないバッドエンドみたいなもので締めくくられていますし。

残酷というかなんというか。
描写の残酷さよりも、そのバッドエンド感にある種のすごさが。
たぶん、昭和のこの時代だからこそ湧いてきただろうストーリーだろうなって感じ。
現代で同じようなものかいても、じめっと陰湿的に終わるんじゃないでしょうか。
バッドエンドはバッドエンドなんだけれども、あとを引く感じのものではありません。
力強いバッドエンド?うまく言葉にはしづらいけれど、とにかく容赦の無い結末。

この『駿河城御前試合』では、『シグルイ』では描かれていない”その後”があります。
「無明逆流れ」の中で勝ったものには、その後どのような顛末が待ち構えているのか。

顛末まで、、、、容赦無しです。



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『家守綺譚 (新潮文庫)』~不思議な交際録~

家守綺譚 (新潮文庫)家守綺譚 (新潮文庫)
(2006/09)
梨木 香歩

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”自然”に好かれる


これは、つい百年前の物語。庭・池・電燈つき二階屋と、文明の進歩とやらに棹さしかねてる「私」と、狐狸竹の花仔竜小鬼桜鬼人魚等等、四季折々の天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録。(出版社/著者からの内容紹介)


●家に住まう

『西の魔女が死んだ』の作者、梨木香歩さんの描く、夢とも現ともつかない美しい物語です。

短い章が沢山連なって出来ている物語。
最初の章から、「?」っとなるような不思議な世界に入っていきます。

怪異と言えばそうなのですが、それほど怖さは感じられない。
ごくごく、自然な調子で、超自然的な出来事が起こり始めます。

それが、全編においてすごくさらりと描かれていて、それが独特の世界観になっています。
主人公、犬、隣家のおかみさん、和尚さん、この世のならざらる友人、自然に住まう者たち・・・
綺麗に、綺麗に交じり合っては離れていく、いい距離感の関係。

物語の最後の方にでてくる、この世とあっちの世界との朧気な違い。
ほとんど交じり合っている、この物語の世界でもそれがあるからこそ、人が人として成り立っていることがわかります。

今はお盆。
現実世界でも、限りなく境目が曖昧になる季節。
そんな気分で読むと、一層雰囲気が引き立ちました。


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