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『さまざまな迷路 (新潮文庫)』〜ショートショートの魅力と毒〜

星 新一
01 /23 2014
さまざまな迷路 (新潮文庫)さまざまな迷路 (新潮文庫)
(1983/08)
星 新一

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星新一氏の著者は小学生のころから親しんでいるが、今回読んだ『さまざまな迷路』が一番面白いと感じた。



全体的な密度のこさ。読みやすいんだけれど、そこに詰め込まれた世界観はどれもが秀逸。

2ページほどの話でも、そこにまったく独自の世界が構築されており、手が抜かれているということはありません。



いわゆるオチの部分も、様々。

うまく落としているものもあれば、ブツんと切断されたようなラストも。

明快なオチがあたえられていないものは、逆にそのすっきりとしない感じに魅力があるものもありました。



一つ一つのテーマとか。

社会風刺、哲学、心理学などなど。

どの作品にもなんらかの毒が仕掛けられており、読後にその毒の広がりに気付く感じ。

普段の生活の中では、その毒はなかなか認識し難いのだけれども(雑多な日々の中で拡散されてしまって、イマイチ明確でない)それらをショートショートの中で結晶化して、読者に気付かせる感じ。

面白いというだけではないのが、それがまた良かったです。



私の好きな展開のタイプは、ちょっとしたことが大事になっていくもの。

自分の意志がだんだん及ばぬ範囲にまで膨らんでいくなど、展開の妙と社会の象徴のような感覚が好きです。

『さまざまな迷路』の中でもこのタイプのものがいくつかあって大変満足しました。

(はやらない料理屋さんが泥棒の相談をしていて、それが最終的には大事になるってやつとか)



少ない文字数の中に、宇宙をつめこむ。ある意味日本人の性質にピッタリ合ったスタイルなんじゃないかと思います。
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『ボンボンと悪夢 (新潮文庫)』~現代への皮肉屋~

星 新一
11 /13 2012
ボンボンと悪夢 (新潮文庫)ボンボンと悪夢 (新潮文庫)
(1974/10)
星 新一

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微笑みに包まれた毒



●気づけば、手遅れ

星新一さんのショートショート36編収録。
読みやすいながらも、内容は強烈です。

星新一作品との出会いはたしか小学生の時。
国語の教科書にその作品が載っていました。
ある街に大穴が空いていて、みんなそこにゴミを捨て出す。最終的には核廃棄物なんかも捨てるようになる。だいぶ経ったある日、最初に穴に入れたものが空から落ちてきて・・・
たしかそんな話。

ショートショートというだけあって、一つ一つがとても短くすごく読みやすい。
文章や表現も、難しいことなどはぜんぜんなく、それこそ小学生からでも読むことができるような本です。

ただ、今改めて星新一作品を読んでいると、そこにある強烈な毒気に改めて気づかされます。
なんというか技術批判や、文明批判というか。いや、批判というほどのものでもない、嘲りのような。
「このまま突き詰めちゃうと、とんでもなくおかしなことになっちゃうよ」ってのを見せ付けられる感じ。
面白いんだけど、笑い事じゃない世界。

すべてが薬頼りの世界、便利ながらも娯楽を許さぬ世界、不思議な犯罪会社 などなど
ありえないとは言い切れないような、様々な未来の可能性を見せつけられているようで。

たとえば、現代のSNSコミュニケーションに入り浸りやスマホを常にいじくる人々。
星新一氏の描いた、行き過ぎた世界と何が違うのかというと、言い返せなくなるような。

21世紀の現代に、改めて読み直してみるとちょっと背筋が冷たくなるような、そんな傑作ばかりでした。



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『ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)』~風が吹けば桶屋が儲かる的ミステリー~

ピエール・シニアック
08 /19 2012
ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)
(2009/12/20)
ピエール・シニアック

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フレンチブラックユーモア


レストランのメニューにウサギ料理が載ると若い女が殺される!女占い師と彼女にほどこしを受けるホームレス、ウサギ料理が好きな男、金ではなく高級商店の新入荷品で上客を取る娼婦。絡み合う人間関係。ある日、「ウサギ料理をメニューに載せるな」という脅迫状がレストランに届く。この町に何が起きているのか?とてつもないブラック・ユーモアが横溢する仏ミステリの傑作。(「BOOK」データベースより)


●なぜ、そうなるのか

以前BRUTUSで紹介されていた本です。
フランス流、毒の効いたおかしなミステリー。

毎週木曜日、レストランのメニューに”狩人風ウサギ料理”がのるとき、殺人事件がおこる。
小さな町で出来た、不可思議な連続殺人事件の背景に潜む、歪んだ仕組みとは…

一言で言えば「風が吹けば桶屋が儲かる」式の展開です。
(ある事象の発生により一見すると全く関係の無いような思わぬ所・物事に対して影響が出ることの例え)
ここでは風と桶のかわりに、ウサギ料理→殺しという不思議な関係性が物語の肝。
一見因果関係の無いような事柄がつながり合って、事件へとつながり合っていく。
そのつながりが成立する、不可思議な街のシステム。このへんがミステリー。
一見荒唐無稽のようにも思えますが、都市から離れた小さな街では、実際にこういうつながりが成立するのかもと思わせられます。

次第におかしな方向に発展していく事件。
殺し=秩序。殺しが起こらない=無秩序。
などという理解しがたいことが許容される、小さな街。

日本の小さな町中じゃ舞台に成り得ないであろう、不思議な感覚。
(好き嫌いは分かれるでしょうが、私はわりとすんなり楽しめました)
異国のブラックジョーク好きな人ならば、おそらく楽しめることでしょう。

●ウサギ料理が出れば、殺人が起きる

話の肝、「狩人風ウサギ料理」を出すレストラン、「オ・トロワ・クトー」。
ここで出される様々な料理の描写。

どれもこれも美味しいそう。食べたことも見たこともないようなものばかりですが、自然とヨダレが溢れてくる…
シェフがこだわりを持ってつくる料理の数々。

その中で、唯一シェフが乗り気でないものの、木曜日に出し続ける「狩人風ウサギ料理」。
そのウサギ料理を出すことで、一体街に何が起こるのか…

一連のつながりを、推理出来た人がいたならば、その人はミステリー作家に向いているのかも。。。
最後の最期まで知的好奇心を飽きさせない小説でした。


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落語と中学生 『花実の咲くまで (Green Books)』

堀口 順子
07 /13 2012
花実の咲くまで (Green Books)花実の咲くまで (Green Books)
(2012/04)
堀口 順子

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がむしゃらも良し

「じいちゃん?」中学3年生の新太郎のもとに、3月に死んだじいちゃんがひょっこりあらわれた。落語家のじいちゃんに弟子入りしたいと切望していた新太郎は、すっかり絶望していたが…。じいちゃんやまわりの人々とのかかわりをとおして、新太郎は自分の進む道を見つけていく。(「BOOK」データベースより)



●落語っぽさ

表紙を一目見て、「ははぁ~ん、これは落語の本だな。」っと確信。
あんのじょう落語でしたが、内容は中学生向けのもの。
なんだかちょっと新鮮な気分になる本です。

主人公は中学3年生の新太郎。
新太郎の祖父は落語家。3月前に死んだはずがある日突然あらわれて・・・
落語家になりたい新太郎と、その周りの人々のふれあいを描いたあったか物語です。

展開や主人公の視点など、読んでいるうちに懐かしさがこみ上げてきます。
そうそう、中学生の頃ってこんな感じの本が好きだったなぁ・・・
主人公の新太郎が真っ直ぐすぎて眩しいぐらい。
これぐらい、わけがわかってなくても突き進むのも良いものだなぁと、感慨すら湧いてきます。

●落語は子供でも楽しめる?

ストーリーの展開を見ていると、中学生×落語というのはなかなか難しいのかなって思います。
落語は、博打や遊郭、夫婦の情愛など、なんとなく大人の機微がわからなければ、楽しめないものも多いのが事実。(『寿限無』や『ちりとてちん』など、中学生にも楽しめるものもたくさんありますが)

新太郎の好きな落語が『文七元結』、『居残り佐平次』、『黄金餅』などを好きなのもちょと無理を感じました。
(結構、人間のディープなところをついた話ばかり。おそらく中学生には楽しめまい)
『文七元結』はストーリーのラストの部分にかかっているのでしょうがありませんが。

この本を読んで、落語に興味をもった中学生がいたとします。
主人公が大好きな上記の落語を実際にYouTubeとかで聞いてみてもおそらく全然楽しめないでしょう。
そこで「落語って面白くないなぁ…」って感想をもたれてしまうのは残念。
新太郎の好きな演目が、そういう部分を考慮した演目ならばよかったのに。

でも、こうした中学生などに向けた、落語の本があるのは良いこと。
日本には色々な文化があって、それに触れる”きっかけ”を多数用意しておくことが必要だと思います。
『花実の咲くまで』を読んで、『文七元結』を聴いて、ちょっと背伸びして「文七元結は良いねぇ!」って中学生がいてもそれはそれで微笑ましいです。

________________________

追記
これを書いていて思い出したのが『サザエさん』の四コマ。
1,2,3コマ目は皆でラジオから流れてくる落語を楽しんでいます(タラちゃんとわかめちゃんはいなかったような)。
皆とても楽しそう。大笑いしながら楽しんでいます。

そして4コマ目。
波平さんがカツオに「今の噺がわかるとは何事だ!!」っとお説教。

多分、廓噺とか大人向けの話だったのでしょう。
それで笑えるカツオはかなりのオマセさんってことですね。





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落語漫画の決定版 『寄席芸人伝』

東野圭吾のブラックな短篇集 『歪笑小説』

東野 圭吾
04 /03 2012
歪笑小説 (集英社文庫)歪笑小説 (集英社文庫)
(2012/01/20)
東野 圭吾

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ベストセラー作家の裏の顔


新人編集者が目の当たりにした、常識破りのあの手この手を連発する伝説の編集者。自作のドラマ化話に舞い上がり、美人担当者に恋心を抱く、全く売れない若手作家。出版社のゴルフコンペに初参加して大物作家に翻弄されるヒット作症候群の新鋭…俳優、読者、書店、家族を巻き込んで作家の身近は事件がいっぱい。ブラックな笑い満載!小説業界の内幕を描く連続ドラマ。とっておきの文庫オリジナル。(「BOOK」データベースより)



●東野圭吾と言えば?

私は東野圭吾氏の本に関しては、代表作を読んだことがありません。
(白夜光、幻夜、秘密etc…)

その理由は、私が東野氏の小説に入ったのは、この○笑小説シリーズだからです。
私にとっての東野圭吾は、かなりブラックユーモアの効いた短編の名手!
だから、いまだミステリーに手を付けてないわけです。

●○笑小説シリーズ

以前紹介した『怪笑小説』から数えて4つ目の作品。
怪笑、毒笑、黒笑ときて今作は「歪笑(わいしょう)」です。
どの作品も、短編で構成されており、ストーリー自体はまったく関連性はありませんが…
ひねくれた笑いのエッセンスは一貫されています。

今作の舞台は出版社。
様々な編集者、作家、取り巻く人々のこんがらがった人間ドラマ。
小説の世界にどっぷり身をおく、東野圭吾氏だからこそ描ける、出版業界の裏側を皮肉ったような話がてんこ盛りです。

「誰が読んでいるのかわからない小説雑誌はなぜ出版されるのか?」に言及した話。
この『歪笑小説』がいきなり文庫本になって登場した経緯もあって、じりじりした面白みがあります。
楽屋ネタと暴露ネタをうまいこと組み合わせたような毒っぽさが全体にありつつ、同時にちょっとほっこりさせるような内容もあり、だれることなく楽しめました。

●ミステリーだったり、歪んでみたり

怪笑や毒笑は非現実的な要素の笑いが多かったのに対し、黒笑と歪笑小説は現実の中に潜む笑いをすくい上げています。
世間のことを、少しひねくれた目で見ないとこれだけのブラックユーモアはひねり出せないでしょう。

ミステリーの大人気作家、東野圭吾のもう一つのスタイル。
それはブラックユーモアで練り上げた、歪んだ笑いのパラダイスです。



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