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少女が創る悪夢  『少女地獄 (角川文庫)』

夢野 久作
07 /27 2012
少女地獄 (角川文庫)少女地獄 (角川文庫)
(1976/11)
夢野 久作

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創って、はまる


可憐な少女姫草ユリ子は、すべての人間に好意を抱かせる天才的な看護婦だった。その秘密は、虚言癖にあった。ウソを支えるためにまたウソをつく。【夢幻」の世界に生きた少女の果ては…。(出版社/著者からの内容紹介より)



『発見!角川文庫祭2012』 収録


●夏の宵に・・・

ゾッとするという表現が適切か。
なかば夢見るように地獄にはまっていく少女たち。
それは自ら創り出した地獄。
少女だから生み出せる、夢想に満ちた地獄。

表題の『少女地獄』は三つの短編で組み合わされてできています。
嘘をつく少女、友人の敵をうちたい少女、火星人と言われた少女。

ここでいう少女は、何も年齢が若いというわけではありません。
その行動が、思想がどことなく少女たりうる者ばかり。

すこしの夢見がちと、危ういバランスによって成り立つ少女たち。
彼女たちの完成されていない、未熟な部分が、物語のオソロシサを引き立ってきます。

●すぐれたタイトル

それにしても『少女地獄』というタイトル、よくつけたものです。
「少女」→可愛い、可憐、清楚、無邪気、幼稚、過渡期 などなど
「地獄」→怖い、凄惨、死、終わり、血、暴力
少女と地獄はまったくあいそうにないもの。

それらを合わせた時に生まれる言葉の威力・・・
タイトルを見ただけで、奇っ怪で恐ろしい感じを受けます。
どんな世界が広がっているのか…見るのは怖い、でも気になる。
そんな暗い欲求に訴えかけてくるものを持っています。

夢野久作氏の『ドグラ・マグラ』でもそうでしたが、氏のタイトルはほんとうに秀逸。
そんでもって、中身は壮絶。浮き世離れした怪しげな世界。
夢想家が生み出す地獄は、読むものをめまいに似た感覚へといざなっていきます・・・



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悲恋の忍術決闘劇  『甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖』

山田 風太郎
02 /25 2012
甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)
(1998/12/11)
山田 風太郎

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人知を超えた、忍びの戦い

家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。 (「BOOKデータベースより)


独自の世界観により、「忍法帖」という新しいジャンルを打ち出した山田風太郎の代表作。
徳川家の命により、伊賀と甲賀の精鋭忍者が人知を超えた忍びの術で死闘を繰り広げる。
そんな中、敵同士でありながら恋に落ちた伊賀と甲賀の二人が、抗えぬ運命に巻き込まれていく。
アクションあり、悲恋ありの、エンターテイメント大作です。

この作品は『忍 SHINOBI』というタイトルで映画化されています。
(仲間由紀恵とオダギリジョーが主演)
映画を観たときにはずいぶんスタイリッシュな忍術ものだな、という印象を受けました。

その映画の原作『甲賀忍法帖』は映画と似通った部分もありますが、こちらのほうがインパクトは強いです。
時代劇という設定なのに、描写がかなり現代的。
どうやら風太郎氏が意図したようですが、文章はかなり読みやすい文体で書かれています。

すらすらと読んでいくうちに繰り広げられるアクションシーン。
時代劇にありがちな、単なるチャンチャンバラバラではなく、忍術を駆使した想像力を掻き立てられるアクションです。
キャラクター各々が独自の忍術を持っているのですが、最強かと思われた者が意外なキャラクターにやられたりします。
相性や、タイミングでどんどん死闘の展開は入れ替わっていく先の見えなさ、面白さ。
最期まで飽きさせないエンターテイメント性を持っています。

アクションと同時に、主人公二人の悲恋が物語に彩りを添えています。
伊賀鍔隠れ、甲賀卍谷。敵対するそれぞれの頭目が恋仲であるという悲劇。
和製ロミオとジュリエットのようなテイストがいい具合に物語を深めてくれています。


舞台、神保町 『森崎書店の日々』

八木沢 里志
01 /09 2012
森崎書店の日々 (小学館文庫)森崎書店の日々 (小学館文庫)
(2010/09/07)
八木沢 里志

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人生の息抜きに

貴子は交際して一年の英明から、突然、他の女性と結婚すると告げられ、失意のどん底に陥る。職場恋愛であったために、会社も辞めることに。恋人と仕事を一遍に失った貴子のところに、本の街・神保町で、古書店を経営する叔父のサトルから電話が入る。飄々とした叔父を苦手としていた貴子だったが、「店に住み込んで、仕事を手伝って欲しい」という申し出に、自然、足は神保町に向いていた。古書店街を舞台に、一人の女性の成長をユーモラスかつペーソス溢れる筆致で描く。「第三回ちよだ文学賞」大賞受賞作品。書き下ろし続編小説「桃子さんの帰還」も収録。(「BOOK」データベースより)


お正月からほっこりした本に出会えたと思います。
どん底気分の主人公が、神保町にある叔父の古本屋さんで下宿しながら次第に立ち直っていく物語。
ところどころ、人生の深みを感じさせるセリフが散りばめられており、楽しみながらもしみじみ心に染み込んでいく良さがあります。

古書街として有名な神保町。
私はまだ行ったことはありませんが、主人公はそこで様々な本と出会い、そしてのんびりした時間の流れる森崎書店で生活するうちに活力を取り戻していきます。

物語の中で、別に古書が主人公の人生に大きな影響を与えるだとか、沢山本の紹介がでてくるだとかといった話ではありません。
しかし、この場面設定が古書店だからこそでてくる味というものがあると思います。

たとえのんびりしていても、田舎暮らしや外国の暮らしとも違う。
古書店という固有名詞的な空間でののんびりした暮らし。
あまった時間の中で生まれた、読書という選択肢。
本から、店が好きになり、神保町が好きになり、そして人を好きになっていく。

少々、話が上手くいきすぎな感じもありますが、そこは物語、楽しみましょう。
この本を読んだあとは、多分古本屋巡りがしたくなると思います。


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悲しい大人達 傷つく子供達 『ゴールドラッシュ』

柳 美里
11 /24 2011
ゴールドラッシュゴールドラッシュ
(1998/11)
柳 美里

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繰り返してはいけないこと

風俗店が並び立つ横浜黄金町。14歳の少年は、中学を登校拒否してドラッグに浸っている。父親は、自宅の地下に金塊を隠し持つパチンコ店経営者。別居中の母、知的障害を持つ兄、援助交際に溺れる姉など、家庭崩壊の中、何でも金で解決しようとする父に対し、少年が起した行動とは…。生きることはゲームだと思っていた少年が、信じるという心を取り戻すまでを描く感動的長編。 (「BOOK」データベースより)


柳美里さんの1998年の作品。
当時起こった、「酒鬼薔薇事件」を下敷きにしているような内容です。
読むほどに引き込まれるのですが、その分だけ切なさが突き上げてくるような作品でした。

主人公は金銭的に恵まれた環境にいながら、親からの愛を与えられずに育った14歳の少年です。
いわゆる非行に走り、少しづつ少しづつ傷つきながら屈折していく少年。
大人になりたい感情と、抗えない子供としての現状の中で彼は徐々に誤った方向に進んでいきます。

彼の遊び場は、欲と性が交じり合った街。
そこにいる大人だけには心を開こうとするのですが、そのコミュニケーションのとりかたも愛を与えられなかったゆえに屈折したものとなっています。

この本では、大人の存在がひどく悲しく描かれているように思います。
大人に余裕がないのでは、子供にも余裕があるはずがありません。

様々なセリフや心情が描かれていますが、最も気になったものを三つ書いておきたいと思います。
上二つは少年を思う金本という大人の心情。一番下は少年のセリフです。

子供がまっすぐな線を引こうとしているのを眺めていて、とんでもない曲線になっているので注意したくてしかたがないが、本人はどうやら直線だと信じて疑っていないようなので声をかけられない、そんな心境だった。まぁ、いい、子どもというものはまっすぐには歩けないもんだ

ひとを殺しちゃいけないよ、それがわかんなきゃ死んだほうがましだ、なぜかって?なぜか、子どもってのはおとなにとって過去であると同時に未来なんだ、先のことはわからねぇけど、知りたいんだ、占いたいんだ、てめぇがいなくなった先の未来をガキのなかに見て安心してぇんだ。

どっちでもいいなんていうのはいやだ。ぼくは超越したいんだ

私にはこれらの心情、セリフにこの本の重要な部分が込められているような気がします。



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奇書の質感 『ドグラ・マグラ (上)(下)』

夢野 久作
08 /22 2011
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
(1976/10)
夢野 久作

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この、世界を構築することの凄まじさ

出版社/著者からの内容紹介
昭和十年一月、書下し自費出版。狂人の書いた推理小説という異常な状況設定の中に著者の思想、知識を集大成する。“日本一幻魔怪奇の本格探偵小説”とうたわれた、歴史的一大奇書。


この『ドグラ・マグラ』を読んでみたいと思い続けてはや数年。
ようやっとのことで読了いたしました。

なぜいままで読んでこなかったのか。それはドグラ・マグラのキャッチコピーの奇怪さにあります。
「これを読むものは一度は精神に異常をきたすと伝えられる」
正直こんなことを書かれては恐ろしくてなかなか読めたものではありません。
今回勇気振り絞ってようようのことで読み終えたしだいです。

まずドグラ・マグラが奇怪たるに感じる所以はタイトルの音にあると思います。
「ドグラ・マグラ」という言葉の意味は作中でも正確に意味を成す言葉でないと出てきています。
意味はない言葉なのに、なぜかこみあげる不気味、怪奇さを感じるこの音はなんでしょうか。
わたしはこの「ドグラ・マグラ」に地下に閉じ込められた怪しげな世界をイメージせずにはいられません。
(人の数だけ、独自のイメージが想起させられる音でしょう)


ざっくりとした内容を紹介しますと、舞台は精神病院から始まります。
自分が誰なのかすらの記憶を失っている主人公。
彼はある重大で奇怪な事件の重要参考人であると伝えられます。
彼の記憶こそが、その事件を解決する鍵だと言われますが…
主人公の記憶を蘇らせるため、怪博士は様々な奇妙な資料を読ませます。
(小説の半分以上はその資料や文章、記録を読んでいく構成になっています。)
はたして主人公の頭の中には何が隠されているのか、そして主人公は何者なのか…
(沢山の資料の中の一つに「ドグラ・マグラ」というものがでてきます。
精神病院に収監されている若い患者が書いたとされる物語のタイトルです。)


読み進めるうちに頭がこんがらがるような錯覚を覚えました。
進行している物語の何が正しくて、何が嘘なのか。
ドグラ・マグラの二重三重に折り重ねられた物語が、読者の正常な判断を狂わしていきます。
そして読了時にはなんともすっきりとしない心持ちです。
どのような話だったのか”わかったような気分”がただもやもやと胸に渦巻きます。
(難解なその内容は、一読では把握できないと言われています。)


ドグラ・マグラが出版されたのは昭和10年。
今から70年以上前の作品なのに、その世界観は時間軸を超越したものを感じます。
現実と虚構、正気と狂気の入り交じった構成は現代の書籍でもお目にかかったことがない複雑さを感じます。

過去多くの人々がドグラ・マグラの解釈を試みてきたそうです。
歴史に残る文化人、作家、そして名も残っていない一般人まで…
ドグラ・マグラは数多くの人の頭に疑問と謎を残してきたことでしょう。
同時に、奇異を面白しとする多くの人間を楽しませてきた作品でもあります。


これからドグラ・マグラに触れる人は、己の既成概念を疑って挑戦することをおすすめします。
そして、理解することを望まず書かれている事実をただ目撃していただければと思います。


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ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
(1976/10)
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