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穏やかな太宰治 『津軽』

津軽 (新潮文庫)津軽 (新潮文庫)
(2004/06)
太宰 治

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自分への旅

昭和十九年、風土記の執筆依頼を受けた太宰は、三週間にわたって津軽半島を一周した。懐かしい故郷の風土と素朴な人柄、そして旅の最後に訪れた乳母たけとの三十年ぶりの再会…。自己を見つめ直し、宿命の生地、津軽への思いを素直に綴りあげた紀行文。太宰の最高傑作との評価も名高い、感動の一冊。(「BOOK」データベースより)


太宰治と言えば『人間失格』や『斜陽』のような、すこしネガティブなイメージの作品を想像してしまいます。

この『津軽』ではそのような太宰治ではなく、比較的穏やかなる心情の時代の、太宰自身による気持ちを綴っている作品です。

この作品を読んで、対照的なものとして思い浮かぶのが『ヴィヨンの妻』。
新潮文庫では表題の『ヴィヨンの妻』をはじめとして、エッセイ風の作品が幾つかありますが、どれも自己嫌悪とやり場の無い葛藤が感じられます。
玉川上水での事件へと向かう直前の、不安定な心情に思わず、辛さを感じる場面もありました。

一方、この『津軽』では、太宰は旅行を楽しんでいます。
自らに対する卑屈さはありますが、それは自己嫌悪というほどにはなっていません。
過去に対して、懐かしみを感じ、旧友と酒を酌み交わし、自らが育った場所の風土にふれ、そして自分というものを見つめなおしていきます。

旅の締めくくりとなる、乳母たけとの再開。
そこで、太宰は自分というものが何から影響を受け、そして今に至るのかを理解します。

そこからは、喜びや、何か晴れ晴れしたものが感じられました。


逆に、太宰のネガティブな部分が形成された理由も見受けられます。
もともと、裕福な家の生まれの太宰治。お手伝いさんや、乳母などがいることからも、旧家のおぼっちゃまなのでしょう。
東北地方の旧家における封建的な家柄。その家柄になんとなく違和感を感じつつも、その曖昧さを突き放すことも飲み込むこともできず、ただ漠然としたプレッシャーを感じ続けた幼年時代。
家族の中で、自分だけは裕福な家柄の性質に合わない何かがあることを感じ、それを気にしながら成長していきました。

旅の締めくくりの、喜びの部分の側面には、そのネガティブな部分の輪郭を強く表すことにもなったのではと思います。

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