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鯨と日本人  『勇魚 上・下』

勇魚(いさな)〈上巻〉勇魚(いさな)〈上巻〉
(1987/04)
C.W. ニコル

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幕末に翻弄される男達


(「BOOK」データベースより)
紀州・太地は鯨取りの村である。将来の筆頭刃刺と目されながら、鮫に片腕を奪われ失意のどん底にあった青年・甚助に、ある日ひとりの武士が声をかけた。紀州藩士松平定頼である。「江戸へ出ないか」定頼はそう言った。―構想8年、若者の夢と野望を軸に、西洋との出会いに揺れる幕末日本をドラマチックに描いた歴史絵巻。


●幕末の和歌山、太地

勇魚』とは鯨を指す言葉です。
幕末期、和歌山県太地を舞台に鯨漁師と武士の運命が複雑に交差していく話。

和歌山県太地とは今でも鯨漁で有名な町です。
近年ではシーシェパードの襲来や、ザ・コーブという映画の舞台などで世界的に注目を集めました。

古来より太地では、鯨漁が盛んに行われてきました。
この話の主人公は、幕末期の鯨漁師「甚助」。
太地で生まれ、太地で育ち、鯨漁師になるべく生きてきた「甚助」がある事故をきっかけに、漁師生命を絶たれるところから、物語は大きく変化していきます。
雄大な鯨漁の描写、幕末期のピリピリとした空気感、江戸時代終焉の気配…
物語は次から次へと舞台を変え、ダイナミズムをもって展開していきます。

●変化していく日本

最初は、太地の鯨とりだけで完結する話かと思っていましたが、実際は全然違いました。
人が自分らしく生きるために、そのために必要な自由を勝ち取るとはどういうことなのか。
日本という島国に閉じ込められていた江戸期の日本人が、幕末にどのように変化していったのか。
どこか、日本人としてのアイデンティティの問題も訴えているような奥深さもあります。

日本の、歴史もののような小説で、これだけワクワクしながら読んだ本は初めてでした。
初っ端にある鯨漁のシーンは、昔の人間対鯨の生々しい対決が描かれており、胸踊るものがあります。
銛一本で巨大な鯨に望んでいく男達。荒々しい対決。そのすべてが生々しく鮮烈に描かれていて、畏敬の念すら浮かんできます。

また、自然豊かな太地の風景から、幕末の日本全体、そして世界へ大きく変化していく場面展開。
人が運命に翻弄されるたび、運命に立ち向かうたびに場面は変わっていき、閉鎖的なところから徐々に開放された世界に広がっていく様は、美しさと寂しさ、力強さが混ざった魅力があります。

そうした背景のもと、「甚助」の人生に惹きつけられていきます。
この時代(江戸時代)の日本人ならば、まず不可能な人生を、己の勇気と覚悟と運を用いて切り開いていきます。
「甚助」が、困難や運命を乗り越えていく場面は、躍動的で、自由と猛々しさを感じ、読んでいて胸が奮い立つような感覚を覚えました。

●鯨漁を通した、日本人観

当時、世界中で行われていた鯨漁。
その鯨漁を通して、当時の西洋と江戸時代の日本のあり方の違いを上手く表現しています。
近代化、効率主義の西洋。
古来ながらの、非効率ながらも漁に精神性も見出す日本。
その違いは、開国や近代化の道へと進まざるを得なかった、日本の姿を表すものかもしれません。

鯨、文化から周りを海に囲まれた島国日本の在りし日が浮かびます。




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