最近、小説のたぐいは図書館で借りることが多いのですが、これは買っちゃいました。
朝日新聞で連載されているときから気になっていて、いつ出るかいつ出るかと待ち続け。
あまりに待ちすぎて、出たことを知らず、ちょいと遅れての購入となりましたが、うん買ってよかった。
森見登美彦さんおとくいの京都を舞台にした物語。
今回は腐れ大学生こそ出てこないものの、怠けを好む素敵な青年が主人公。
そして、主人公を取り囲む、癖のあるアヤシゲな人々や怪人&神さま。
ゆるゆるとした物語展開が、心地よい脱力感をかもしだしています。
ゆるゆると物語は展開していくものの、とりたててアグレッシブなことが起こるわけでなし。
大きな冒険でなく小さな冒険がのんべんだらりんと続いていって、総合的にそこそこ大きな冒険としてまとまる感じ。
他の森見作品で言えば『四畳半』、『夜は短し』、『有頂天家族』のような京都舞台の脱力阿呆らしい不思議系。
『宵山万華鏡』や『きつねのはなし』のようなシリアスさはないです。(わたしはシリアスじゃない森見作品のほうが好きです。)
なんでしょうか、森見作品のゆるさ。
夏の夕暮れどきのような、だるさとゆるさ。
クソ暑い日中が終わり、やんわりと涼しさが広がって、どこか脱力気味な心地よさがひろがる、、、そんなゆるさ。
『聖なる怠け者の冒険』の中でも季節は夏ですが、やっぱりその季節が一番ゆるさに合うんじゃないかなって思います。
(真冬とかだったらゆるくないですもの。こたつのなかとかはゆるいけど。)
ぽんぽこ仮面なる怪人が出てきます。
彼は一体何者で、何故本書で起こる様々なできごとにまきこまれていくのか。
それがストーリーの大筋の一つでもあるのですが、この怪人のネーミングが良い。
森見登美彦さんのネーミングのセンス、本当に好きです。ゆるい。
なかなかタヌキの怪人に「ぽんぽこ仮面」というベタベタな名前をつけるのには勇気がいるもの。だって主要キャラなので、全編通して「ぽんぽこ仮面」の名が出てくるのですから。
下手に骨のある内容ならば、違和感でも沸き起こりそうなものですが、『聖なる怠け者の冒険』では、それをしっかり受け止めるだけのゆるさを持っています。
他にも天狗ブラン、偽電気ブラン、充実した土曜日、週末探偵、etc・・・素敵なネーミングがいっぱい。
これらのネーミングにあふれた世界に接しているだけで、なんだかゆるい(脱力した)心持ちになれるので、私にとって森見作品は浮世をちょっとだけ忘れる良い息抜きとして役立っています。
世界観や空気感が良い。
正直、ストーリーとしては、大層なことが起こるわけでもないし、とりたてて感動する、驚きがある、ワクワクするといったこともありません。
ただただ、淡々ゆるゆると展開していって、最終的に小さな冒険の積み重ねの結果が待ち構えている構成です。
読み終わったあとに、特に何か胸に残るでもなし。
でも、時間がたつと無性にあの世界に浸りたくなる。。。
なんだか分かりづらいですが、私にとってそういう小説でした。
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